仙台高等裁判所 昭和63年(ラ)31号 決定 1988年5月18日
抗告人 株式会社ホンマ
右代表者代表取締役 本間敬啓
右代理人弁護士 早瀬川武
相手方 破産者本間秀雄破産管財人武藤正隆
主文
1 原決定中、別紙物件目録(二)記載の物件に関する仮処分申請を却下した部分を取消す。
抗告人が本決定の告知を受けたときから三日以内に保証として金七〇万円を供託することを条件として、相手方の別紙物件目録(二)記載の物件に対する占有を解いて福島地方裁判所執行官にその保管を命ずる。
執行官は前示各物件につきその保管にかかることを公示するほか、その保管について適当な方法をとらなければならない。
2 抗告人の別紙物件目録(一)記載の物件に関する抗告を棄却する。
理由
一、本件抗告の趣旨及び理由は、別紙のとおりである。
二、記録によると、抗告人は破産者に対し、昭和六一年七月六日から昭和六二年一二月二四日まで十数回にわたり別紙物件目録(二)記載の物件を売り渡したところ、同月二八日ころ右両者間において同売買契約を合意解約した事実が一応認められるから、同物件に関する仮処分申請については被保全権利の存在が疎明されており、また保全の必要性も認められるので、右申請を却下した原決定は不当であり、なお前示被保全権利の疎明にあたり相手方から提出されることが見込まれる通謀虚偽表示、否認の抗弁に関する当否も勘案したうえ、これを主文第一項のとおりに変更する。
三、別紙物件目録(一)記載の物件に関する仮処分申請について、抗告人は、被保全権利として動産売買の先取特権に基づき相手方に対し差押承諾請求権を有すると主張するところ、右主張は次の理由により採用することができない。
動産売買において買主が代金未払のうちに目的物の引渡を受け破産に至った場合、破産法二〇三条によれば、破産管財人が右目的物を換価し得る権限は動産売買の先取特権者といえどもそれを拒むことができないとの定めになっているところ、抗告人の主張は、動産売買の先取特権の性質論・効用論から、破産管財人に対し売買目的物について先取特権者たる売主に対する差押承諾義務を課し、もって破産管財人の換価権を制限しようとするものであり、明文の根拠もなしにかかる法解釈をすることには無理があるように思われる。しかも、破産管財人が該目的物を換価すれば、右換価代金債権に対し物上代位権を行使して保全処分、民事執行の手続をとり、あるいは右換価代金について寄託をさせ(破産法二〇三条)、配当要求をする(民事執行法一三三条)などして優先弁済を受けられる方法があるほか、仮に前示寄託がされなければ不当利得償還請求権の構成により財団債権者として権利行使する方法も考えられないではないのであるから、いずれにせよ前示法解釈上の無理を押してまで先取特権者に換価権を専有せしめる必要性もないと思われる。したがって、抗告人の主張は失当である。
そうすると、別紙物件目録(一)記載の物件に関する仮処分申請については、当裁判所も、原決定と同じ理由によりこれを却下すべきものと判断するから、この点に対する本件抗告は失当として棄却を免れない。
四、よって、主文のとおり決定する。
(裁判長裁判官 石川良雄 裁判官 武田平次郎 木原幹郎)
<以下省略>